La Regina sorride 【 女王は微笑う 】
少女最強にして最凶

が見たのは、
弱気な雰囲気を持つ小柄な少年、沢田綱吉。
精悍な面影を持つ楽観的な少年、山本武。
シルバーを多く身につけ制服も着崩した不良、獄寺隼人。


友人関係と言うには見た目も性格もかなりデコボコなトリオである。
まあ、世界は広いからそんな凹凸(おうとつ)の激しい交友があってもいいかと完結させる。

それにしても忙しい少年である。沢田綱吉は。

人の言葉にいちいち百面相する姿は見ていて感慨深くなる。
の周囲は、自身を含めて感情を表情に出す事は意図的に抑える人種ばかりだからだ。
自身が自らを理事長だと名乗った直後は目が飛び出るんじゃないかというくらいの驚き様だった。

まあ、驚いたのは他の二人も同様だったが。

「りりり理事長って、事はもしかしてっ」
「実質上、この学校の最高責任者ってところよね。なぜわたしに呼ばれたかも理解したでしょう?取り敢えず、獄寺隼人は座りなさい。テーブルに乗り上げるのはマナー違反よ」
「・・・・」

言い方は強いが的を得た言葉に、獄寺は渋々綱吉の隣に腰を落ち着けた。
雲雀とコウと呼ばれていた赤毛の男を睨みつける事は忘れなかったが。
どこまでも喧嘩姿勢の不良に綱吉はさっきから冷や汗が止まらない。

その大元たるは先に渡された資料をついと指差し問うた。


「もう一度聞くわ。そこに書かれてる事項、心当たりの無いものはある?」

「心当たりのない・・・(むしろありまくりな)え、えーっと、」

綱吉が必死で紙面の文字を目で追う。
すると数秒後向かいからクスリと小さな笑い声が耳を掠めた。

あまりにもささやかで反射的に顔を上げた綱吉は、目の前の光景に一瞬で赤面した。

「・・・っ!?」
「本当に君はよくよく表情が豊かね」

それにとっても素直。と。
まるで花がほころぶような甘い笑みを浮かべたがいた。

綱吉が憧れる学校のアイドル笹川京子は無邪気な愛らしさが際立つ。
それに対しての場合は、大人びた容姿と相まって甘さの中に艶っぽさを含んでいてどきりとする。

「(さんって、凄く綺麗な人なんだ)」

ボンヤリそう感慨に浸るのは綱吉だけでなく、両脇の山本や獄寺も同様で。
しかしあまりの優美な体験は、視線を動かした先の光景を見て愕然とした。

雲雀と赤毛の男がこちらを眼光鋭く睨み付けていたからだ。
雲雀の場合目がギラつき好戦的に口角が持ち上がる。

「並盛の風紀を乱した事認めるんだ。咬み殺す」
「色眼鏡でうちの姫を視界に入れるな。抉るぞ」



「ひい!!」
「なあ!?このアマ騙しやがったな!!」
「お、落ち着けよ。どういう事なんだ?」

即座に理解したのは不良な獄寺だった様で、再びに食ってかからん雰囲気だ。
比較的冷静な山本はなんとか問いかけるも、珍しくも雲雀が殺気立った視線のままの補足をした。

「彼女は「心当たりの無いものは有るか」と聞いたんだ。無いものを探してるって事は、「それ以外は心当たりがある」ってこと」

「・・・あ」
「騙す形で悪かったわ。なにより被害額が大きいから白を切られると困るし」

お陰で平和的な解決が望めそうよ?

にっこりと微笑む姿は何もなければ綺麗なお姉さん然としている。
しかし事が事だけに全く安心出来ない綱吉は先ほどよりも冷や汗は増えるばかりだ。

そして、の目は児戯に戯れる子供に様なふわりとした笑みを浮かべ、

「まあ、そういう事だから貴方たち全員咬み殺すわ」

「っええええ!?」
「「っ!?」」

「・・・・というのは恭弥の仕事」
「「「・・・・・・」」」

どこまでも綱吉たちの不安ばかりを煽るに、もうきっと何を言われても安心出来ないと悟った綱吉たち。
しかし再び口を開いた彼女のセリフに再び目を見開いた。

「わたしの本題はただ一つよ。リボーンって言う赤ん坊はどこ?

「へっ!?」

思いもしなかった名前が飛び出てきたことで、三者は同じ様にポカンとした。
目前の笑みが有無を言わせぬ威圧感を漂わせている。

「二度は言わない。答えて」

「お、オレは・・(リボーンっていつも神出鬼没だし・・そもそもなんでリボーンなんだ?)」
「ちゃおっス呼んだか?」

「リボーン!!」


幸か不幸か、本題の赤ん坊はあっさりと現れた。
窓から。

「流石、だな。なかなか喰えないヤツみてーだ」

「・・・本当に赤ん坊だったのね」
「僕はそう言った筈だけど」

驚きの綱吉側とは裏腹に、側の面々(特に雲雀)が獲物を見る様な鋭さでリボーンへの視線を集中させた。

それを気にした風でもなく、ぽてぽてと音が付きそうな小さな足を動かし、リボーンはの隣に腰掛けた。


「それにしても上手い具合にオレを誘き出してくれたじゃねーか」
「誘き出す?君が自主的に現れただけでしょう」

「どうだマフィアになんねーか?」
「んな!?リボーン、またそんな事っ」

「嫌よ。だったら貴方がうちに来て」
「(逆スカウトしてきたし!?)」

挑発的なリボーンにものらりくらりと交わして切り返す

「オメーは町一つで収まるタマじゃねーだろ」
「わたしの器はわたしが決めるわ。わたしの物はわたし自身を含めてわたしの物だもの」

「(10代目、なんかアイツ生意気じゃないっスか?)」
「(ちょっ、獄寺くん!?)」

しかもどちらも引かずに、打っては打ち返し。
打っては変化球を投げ返し。
しかもリボーンは赤ん坊らしからず、だんだんとこのやり取りに楽しさを見いだした様だ。


・・いい女じゃねーか」
「ってそっちー!!?」

綱吉は精神的ダメージ大。

は柳眉を吊り上げて不機嫌そうに口をへの字に曲げた。
不機嫌さを露わにした様がなぜか雲雀と重る。


「まあいいわ。歓迎するわよリボーンくん」
「・・・姫、いいんですか?」
「恭弥が興味があるって言うんだもの。理由はそれだけでも十分でしょう」
「・・・・ふん」

「(雲雀との信頼関係が成り立ってんな。こいつは中々手強いかもしれねー)」


「お話を戻しましょう。我が並盛で仕出かしてくれた事についてよ黒幕さん」


口調は柔らかいのに、の言葉には力がある。
不機嫌さから一変、口元に弧を描き「コウ」と赤毛の男を呼び、言った。

「club」



ガッギイン!!

「んなああ!?」

「ワオ」

「なんだ!?」

え、クラブ?部活?
とっさに出た言葉に意味を理解しかねた綱吉たちが見た光景は信じ難いもの。

一瞬前までソファにあったのは、セーラー服の美少女とボルサリーノが奇妙に似合う赤ん坊――たっだ。

しかし今目の前にあるには、リボーンがいた場所に片手で棍を突き刺すと、
銃の筒でそれを抑えるリボーン。

先の金属音はの攻撃をリボーンが受け流した音らしい。


「なるほど。只者なんて言葉、君には無縁の様ね」
「オメーもな。その細腕一本でソファもろとも突き刺すのは並じゃねーぞ」

「舐められては困るの。腕力もわたしの存在もね」

お互い笑みを浮かべてはいるが、その絵はかなりシュールだ。

綱吉からして見れば別次元のやり取りにしか見えない。
銃を持つ赤ん坊の存在を見たまま受け入れ、尚且つ対等に話を交わすは。


舐 め る な よ

ズボッとソファから突き刺した棍を抜き、脇に挟み立ち尽くす彼女はやはり高圧的で。
此処にいる、ほとんどの人間(特に綱吉)の冷や汗を誘発する冷たい声で言い放った。

彼女の強い存在感にリボーンさえも目を見張った。

「ここ数ヶ月の間、校舎を含めて建物の破壊が多々起きてる。ある場所では食中毒者が続発と言う報告も受けてる」
「(ビアンキまで目え付けられてる!?)」

食中毒の大元らしきビアンキは獄寺の実姉である。
まさかここにきてその件まで上がるとは。

という彼女の情報網の広さに感心するより、もう自分の人生終わったんじゃないかという絶望感が綱吉を襲った。

ヤバイやばい!
俺もしかして刑務所とかに入れられる!?
・・正確には少年院だろうが。


「―――そもそもそう言った事件に関してわたしは口出ししないわ。一々してたら面倒だもの」

「えっ!じゃあどう言う・・・・・あ、・す、すいません!」

思わず出てきた疑問の声に、はスっと綱吉へと視線を寄越した。
やはり雲雀の様な獰猛な気配はあるが。


「ものを壊す事に賛成はしないけど反対もしない。わたしも壊すし」

「「「(壊すんだ)」」」

「ただ、修理費や慰謝料を名乗らず何も言わずに手配されているのは不愉快よ。何事もなかった様にされるのがこの上なく、ね」


だから、と。
は綱吉から辺りをすいと見回し、リボーンへと戻す。

「だから、これ以上我が地を蹂躙する様な対処を行う様なら」



そして、花が咲く様な笑顔で、
誰もが見惚れる様な美貌を全開にして、

今此処にいる、事情を知る人間が凍りつきそうな言葉を放った。



「ボンゴレの本部へ殴り込んで、咬み殺しに行くから」


小首を傾げて宣言したはその後、その他処遇を雲雀に任せ去って行った。
「またね。次は容赦しないわよ」そんな宣戦布告を言い置いて。

と赤毛の男が去り、静かになった応接室でリボーンは感心した様に言った。

「流石はヒバリの従姉だないろんな意味で半端ねーぞ」
「ええーーー!!!あれが雲雀さんの従姉!!?」
「い、言われて見れば・・・すげえ似てる」
「はは・・。雲雀の血筋ってのはみんな並盛好きなのな」

た、たしかに!

山本の呑気な解釈は間違っていない様な気がした。
あの威圧感や一瞬だけ垣間見せた攻撃性は、そう言われて見れば雲雀恭弥とよく似ている。
思い返せば彼女の容姿さえ。
その静かで強い怒りが『並盛』と言うワードに起因すると言うところも。

「まあ、お前たちを追い詰める事だけで俺を呼び出させた手腕は中々だな。情報網も伊達じゃねえ上、その正確さから見ればこっちの行動は筒抜けだしな」

「本当に怖い人だったんだっ?!」
「つまりだ、俺が言いてーのは一つだ。頑張ってあいつをファミリーに入れろよツナ」
「結局そっちかー!!?無理だよ。嫌だよ!俺にはハードル高すぎるっ!!俺を殺す気かっ!!」

さっきの圧倒的な権力差見ただろ!?
死ぬ気でやれ。
だーかーらー!!!




―――と言う強い存在がなくなった事で安堵した彼等。
しかし忘れてはならない存在がいる事を綱吉、獄寺、山本は思い知らされる事になる。



「話は終わったね。からの許可も降りたんだ、君たちは今から僕が咬み殺す!」


雲雀のトンファーが容赦なく三人に振り下ろされたのはその直後であった。



(ひ、ひばっ・・ぎゃあ!?)
(ずっと目の前で群れられてたんだ。イライラするんだよ、ねっ!)
(ヒバリ!テメー、果てろ!!)
(獄寺花火してる場合じゃねえよ。ツナこっちだ)
(花火じゃねーっつってんだろうが!!)



(・・騒がしくなりましたね)
(いい事よ。恭弥も楽しそうだし。哲のフォローにも感謝しなくちゃね)
(ボンゴレマフィアの件についてはどうすいます?)
(マフィアのコネも悪くないわ)
(・・・・本気ですか?)
(どちらにせよ、貸しがあるもの。その内殴り込みに行こうかしら)
(程々になさってください)
(・・・・ん)