並盛神社。
並盛町にある一番敷地面積の広い神社である。
手入れの行き届いたここは穏やかな気質の神主の目もあって、公園についで親がよく子供を遊ばせていることでも知られている。
年末年始ともなれば、並盛町民のほとんどがこの神社で参拝をすると言って過言ではない。
四季折々に開かれる花見や祭りといった年間行事。
今年の夏も例にもれず、この神社で花火大会が開かれた。
「ツーナ!綿あめだじょー!ランボさん食べる!」
「えぇー?ランボさっきお小遣い使っちゃっただろー」
あたりでお囃子の音が流れる。
屋台を回る者の多くは浴衣や甚平に着飾った者か、半袖短パンの軽装か似たような井出達が多い。
ランボとイーピン、五歳児たちの面倒を任された綱吉も後者の恰好で、周囲のにぎわいに自然と雰囲気が盛り上がる。
一番手のかかる黒髪アフロのランボは、片手に300円のとうもろこしを持ちながら早速別のものに興味を示したようだ。
400円の値札を見て「さっき買っただろー」と渋る綱吉に、食べる食べると喚きだしたランボ。
お小遣い300円だと言われたこともすっぽり忘れ去った五歳児は「ツナの意地悪ー!」と理不尽に不貞腐れた。
弟のいない綱吉だが、面倒を見た長さゆえにぐずられることにも慣れて来たが、公共の場で喚かれることには困ってしまう。
「じゃあランボ、先にとうもろこし食べてから」
「やだやだー!綿あめもー!!」
「あのなぁ・・・」
ダメだといわれて意地になってしまったランボに気づいて、綱吉もため息が出る。
このままずっと続けていれば、泣きだすのも時間の問題だろう。
仕方ない。ここは妥協して自分が買うしかないのだろうか・・・。
しかし五歳児がとうもろこし一本と更に綿あめを完食できるとは、(一緒に食べている食卓を思い出す限り)到底思えない。
恐らく綱吉も一緒に食べることになるのだろう。
「・・じゃあ、ちょっと待ってろよ」
諾の答えを聞いたランボはコクコクと首を縦に振った。
素直な反応に綱吉は、呆れ半分安心半分で屋台へと向かおうとした。
「待って」
「え?」
涼やかな声が背中にかかる。
お囃子と喧騒に包まれたこの場にすんなりと耳に入る声。
聞き覚えのあるそれは女性のもので、綱吉は反射的に振り返った。
そしてその存在は何時だって綱吉の肩を強張らせるのだが、今回はあらゆる意味で綱吉は突っ込まざるを得ない姿が直立していた。
「せんぱ・・って!!?めっちゃ祭り楽しんでるーっ!!??」
「・・・悪い?」
綱吉のツッコミにの柳眉がつり上がる。
しかし綱吉だけでなく、道行く人々の視線がの姿をチラチラと見ては通り過ぎて行くのを見る限り綱吉の反応は正常だった。
青地に大輪の牡丹が咲き誇る大人びた浴衣を纏い、纏め上げた黒髪にうなじは色っぽい。
シャラリと揺れる簪や、袖からのぞく手首や足首の白さに思わず顔を赤くしてしまう。
それだけならばよかったというのに―――。
簪を飾る頭の上にはひょっとこ面。
帯前に刺さっているのは二本の風車。
片腕に抱えているのは射的場で見かけたぬいぐるみが見える限り三・四個。
逆の手にはタコ焼きの包みが二つ。
ダメだしとばかりに首から後ろに下げているお面(狐)がもう一つ。
お祭りの定番が彼女のあるべき姿を壊滅に追いやっていた。
これを今まで誰も指摘しなかったのだろうか、綱吉はいろいろと心配になってしまう。
「(先輩ってお祭り好きなんだな・・すっごく・・・)」
「あ、ー!」
「・・・ん」
悶々としている綱吉を無視してに絡んだのはランボだ。
遊び盛りの子供が彼女の色っぽさに気づく筈はずもなく、むしろ楽しそうな姿に興味津々の様である。
に関しても自分の姿をどうこう言われる筋合いなど毛頭ないようで、何か言いたげな綱吉にもあっさりと関心をなくした。
わが道を行くところは並盛最強の男と同じ血が流れていると感心する他ない。
そして並盛最強曰くの小動物を好むところも――。
「そのクルクルなんだ?」
「・・欲しい?」
「なんだこれ!」
同じ視線にしゃがみ込み、帯に差してあった風車を一本取りランボに渡す。
単純だが変わった形状の風車は珍しいのか、手に持ちブンブン振り回す。
「・・歩いてごらん」
「お・・おお!?」
くるくる回るそれが気に入った様子で、ランボは嬉々として走り回った。
恐らく綿あめでぐずっていたこともすっかり忘れて。
遊びだしたランボを見ながら、綱吉はなんとなくが助けてくれたのではないかと思えた。
「あの、先輩ありがとうございます・・」
「・・何が?」
驚いたように振り返るは、どこか困惑した様に視線を彷徨わせた。
しかしすぐに「じゃあ」と短く言って、人ごみを避けるように御社の裏の方へと歩いて行ってしまった。
去り際にランボがブンブンと風車を振り回す。
「ー!ありがとだもんねー!!」
「・・・ん」
「(・・・あれ、照れてる?)」
首だけ振り返ったは小さく返事をして、歩みを速めてさっさと行ってしまった。
綱吉は並盛権力者のツンデレを垣間見た気がした。
「あれ?十代目?」
「うん?・・お、ツナじゃねーか!」
「え・・あ、獄寺くん!?山本っ!?」
聞こえた声に振り返った綱吉は、今度は友人達が屋台でチョコバナナを売っていたことに驚くことになる。
「・・・・・ずいぶんと満喫してきたようだね」
「馬鹿にしないで、まだ序の口よ」
「(馬鹿にって)・・・・・・・・そう」
雲雀は目を放した短時間で変わり果てた従姉の姿を見て呆れかえっていた。
花火大会に誘ったはいいものの、風紀委員恒例の「ショバ代」徴収に時間を食うこともあり現地集合という形をとったのだ。
メインは雲雀の嫌う弱者の群れから離れ、静かな場所で己が認める彼女と花火を見ること。
あわよくば手合わせして思い切り戦闘に持ち込めればなおよしと考えていたのだが・・・。
現れた彼女の件の姿を直視してしまった雲雀の心情は・・推して知るべし。
「五万だったわよね。徴収終わったの?」
「まだだよ」
「なら、手伝うわ」
「・・その格好で?」
雲雀もの容姿がどれだけ異性受けするかを知っているため、浴衣で着飾った彼女はさぞや綺麗なのだろうと期待していた分、その不必要なオプションの数々は遥かに予想外だった模様。
なにしろ軽く化粧まで施した美貌の斜め上にひょっとこ顔。
去年の狐面の方が百倍マシというものである。
数日前にイタリアから帰国した、彼女のフラストレーションがここで発散されるとは誰が思っただろうか。
「まだ食べ終わってないだろ。それまでには帰ってくるから」
「そ、分かった」
「他に欲しいのは?」
「チョコバナナとたい焼き」
「・・・・わかった」
たこ焼き二つ買っておいてまだ食べるのかと言いたいが、彼女の食生活に重箱が存在することを知っている雲雀は突っ込まない。
むしろあの恰好でふらつかれることで、雲雀としてはあらゆる意味で不安を煽るからだ。
御社の縁側に腰掛け、たこ焼き片手に手を振る彼女に溜め息を零した。
膝の上にどこかの景品らしきピンク色の猫のぬいぐるみと、両脇にもよくわからない動物のぬいぐるみを置くの姿はまさしく祭りを満喫していたのだった。
―――並盛の祭りをこよなく愛しているのは恐らく彼女に他ならない。
時系列で言うところの二年目の夏祭りですね。
夏祭りに変わりないんですが、花火大会でも縁日でもいい気がしましたので<
アバウトです。すみません<(_ _)>
思いがけずに天然&ツンデレ発生しましたですねぇ。
設定では確かにツンデレさんなんですが、どちらかというと女王属性の方が強いかと・・・・
発揮する相手が今回でないせいなんでしょうね(リボーンとか獄寺とか)