愛してるぜぇ!!

「最近火傷で運ばれる患者さんが多いわよねえ」
「あら、ニュース見なかった?最近新宿付近で放火が多発してるんだって」
「あーそれ私も聞いたわ。なんかゴミ捨て場でって」

ナースの間で話題になっているのを小耳には挟みながら、うちは大丈夫かなあと気の抜けた心配をする。
新聞は毎日取っているから最近の身近な事件は知ってるけど、うちの身内は大丈夫かな。
なんだかんだで知り合いの大体は被害場所近辺に住んでいるもんだから、犯人はさっさと捕まって欲しい。


「うん、うん・・・・じゃあねそっちも気をつけてよ。最近放火が多いから。・・あたしは大丈夫。そっちこそ路地裏なんかにちゃっかり放火されない様に・・・ああ、はいはい要らん心配ですね。・・・ん、じゃねー」

本日の仕事を終えて、大江戸病院の屋上で父さんに定期連絡。
一人暮らししてるあたしの心配してくれる家族はありがたいよ本当に。
まあ、万事屋とかお登勢姐さんとか、あとは真撰組連中からもうちの場所知ってる人たちはいろいろ言ってくるから今更耳だこなんだけどね。
最近は「おはよう」「こんにちは」の後に「放火魔来てない?」とか、むしろ被害に遭ってくれと言っているように聞こえるんだけど。
・・・幻聴だよねコレ。あたしの被害妄想だよねコレ?!

子供は70%の憎たらしさと25%の潤いと、後はアレだ、ひいき目で出来てる

ヴー ヴー ヴー
オッレェ〜 オッレェー! カ・ト・ケ・ン サ・ ンッバぁ〜♪

「うん?・・・『たかり屋銀パ』・・はーいもしもーし?」
姉!姉アルか!?』
「ああ、うんあたしの携帯だから当然だよね。あたし以外が出てから疑問に思いなさいね神楽ちゃん」

まあ、分かるだろうけど『たかり屋銀パ』ってのは、携帯登録してある万事屋銀ちゃんの連絡番号です。
事あるごとに家に侵入しては飯を漁るあんにゃろうにふさわしい称号じゃないか。
神楽ちゃんと新八君も頭数に増えてからは、食費の消費がかなり激しいし・・・。
つか、あいつらをなんやかんやで流してるあたしってアレじゃない?
あの、世間的に言う、マダオ養う的なアレじゃない?!げ、マジかよアレかよ!!
・・・・今度奴が家宅侵入してたら、アレだ、あーしてこーしてアレ召喚してやろう。うんそうしよう。
・・・・・世の中には詮索してはいけなものもあるんだなあと、良い子の皆さんは心に仕舞っておきましょうね。

「どーしたの神楽ちゃん」
『銀ちゃんが、銀ちゃんがっ!』

スピーカー越しに聞こえる切迫した声に、あたしは眉間の皺を寄せた。
神楽ちゃんは早々気を取り乱すような子じゃない事はなんとなくわかる。
だからこそこんなに慌てる彼女は珍しいし、何よりあたしに助けを呼ぶ事に何か理由があるのかもしれない。
まさか銀時に大事があったのか?いつかの事件に巻き込まれた的なアレか?治療してくれ的なアレだろうか?

万事屋の電話から掛かってきたという事は、神楽ちゃんと銀はそこにいるってことと考えていい。
まさかヤバい系の仕事かなんかで重傷とか!?生死を彷徨ってるとか!?

「落ち着いて神楽ちゃん!万事屋にいるんでしょ?銀がどうしたの?」
『分からないアル!なんか「メグミ」とか言うとこから電話来て、銀ちゃん引き取ってくれって』
「めぐみ・・・「め組」?火消し屋って事?・・え、引き取る?」

・・・・・・ひきとる?
サーっと体の血が音を立てて下りて行った気がした。
「引き取るって」なんだ?

火消し屋ってことは火事の際消火作業する職業だろ?
そいつがなんで銀時を引き取ってくれって・・・・まさかっ。
引き取るって、遺体をひきと・・・まさか、嘘だろ・・・・銀っ!!

ビキッと携帯に亀裂の入る音がしたけど、そんな事はどうでもいい。
結論にたどり着くまで数秒も掛からなかった。
気付けばあたしはすでに病院を走り抜けていた―――。

病院に駐留している駕籠屋(タクシー)を捕まえる暇さえおしかった。
め組と病院と警察は基本的に移動距離はさほど遠くは無い。
住み慣れた街ゆえに大路よりも裏道を突っ切った方が早い事も知っている。

着のままの白衣が翻って鬱陶しいが、今日が着物で無いから幸い走るのには苦労しない。
自慢の脚力で塀を乗り越え、ポリバケツをハードル跳びのごとき鮮やかさで走り抜ける。
―――あとはあそこを曲がって大路に出ればっ!!

「うわっ!あぶねェ!」
「なんだ!?」

横道から飛び出してきたあたしをたまたま通りかかった者達が唾を飛ばすが、そんなものに関わってる暇も余裕もあたしには無い。
だって、あいつが・・・・銀時が・・殺しても死にやしないようなあの男が・・。

『銀ちゃんがっ!』
「・・・っ」

脳裏によみがえる神楽ちゃんの声が不安を増長させ、それ以上考えたくなくてギリッと歯を食いしばった。
それでもやっぱりその声が鮮明に蘇って・・・・。

横断歩道もない車が沢山行き交う大通りのど真ん中さえ突っ切った。
クラクションがつんざき、車体が白衣の裾をなめても足は決して止まらない。
真撰組の同僚に見つかってたら間違いなく捕まってたと思うけど、とにかくそんな事考えている場合じゃない!

「あっ!」

ようやく見えて来た「め組」の文字に、乱れる心音が耳元で響く。
足は自然に速度を落として、今になって初めて自分の呼吸が乱れている事に気が付いた。
視界がふら付いてるのは体が悲鳴を上げているせいだろうか、それとも正常に機能していない思考回路が体の機能を麻痺させているからか・・・。
きっとどっちもだと思う。
それでもあの門を潜るまで足は止めない。
その先にあるのがあたしの求めていないモノだとしても、だ。


あたしは扉の開け放たれた「め組」の奥で、見慣れた着物が一人で直立しているのを見た。

「一応家に連絡しといたから。もうすぐ家族が迎えに来てくれるだろ」
「あ?余計なことすんじゃねーよ」

・・・・・何あいつ。なんでピンピンしてんの?
安堵と同時に怒りが湧いた。

「・・・悪かったな、俺の勘違いでこんな目に合わせちまって」
「まァ気にすんなや。俺も見苦しいもん見せちまったし、あいこにしよーや」
「オメーここに来てから股間の話しかしてねーぞ!!」

謝罪する女性と相対する銀時が変わらぬ死んだ目で相変わらずの減らず口をたたく姿。

「・・・・・何?あんた死んだんじゃないの?」
「はあ?・・って?なんでこんなとこに・・・」

振り返った銀髪は違う事無く坂田銀時だった。

あれ、「引き取る」ってそのままの意味だったっけ。
ああ、そう言えば神楽ちゃんもたしかソレしか言ってなかったような・・・。
え、でもさ、最近放火魔の話題ばっかじゃん。
この前こいつと顔合わせた時だって「放火魔来た?」とかふざけた事言い合ってたじゃん。
そんな矢先に火消し屋からあんな連絡来たら普通勘違いしない?するよね?
「引き取る」んだから犯人なわけないし、だっからあとは「被害者のご遺体お引き取り下さい」ってそういう意味にとって然るべきだよね?え、違う?

・・・・・・・・・・・・・・・・少なくともあたしにはそう聞こえたわけで・・・・とりあえず。

「―――死ねェ!!放蕩息子ォォ!!!」
「なんでエエェェ!!!??」


とりあえずあたしの精神を侵害した罪でこいつを粛正することに決めた!

「・・・あってて、なんだっつの!現れたと思ったらいきなり殴りかかるかフツー?オメー色気なくてももーちょっと理性はあったよね?!」

とりあえず眼前の銀髪野郎を蹴り倒してから、あたしの心のコマンドはずっと「たたかう」を連続プッシュしました。
反撃の隙を与えずプッシュしました。
反論の自由を与えず叩きのめしました。あ、叩きのめすって言っちゃったよ。

「緊急時に発動する波動拳をMP無限消費しただけですけど、何か?
「「何か」じゃねーよ!!こちとら問答無用でボコ殴られてんだよ!?問答無用でHP真っ赤なんだよ!!」

ひと通り殴り通したあたしは、最後に大の男を踏みつけた。
「ぐへっ」とか呻いてもなんとか立ちあがった銀時を睨みあげ、腰に手を当てて仁王立ち。
頬に怒りマークくっつけた野郎は、ボロボロになりながらもあたしの頭を鷲掴みぎりぎりと握力を強めて来た。

「銀髪天パで死んだ目した坂田的な野郎は、出会い頭でボコられる生き物だからじゃないですか?エンカウントしたら速攻ザラキを唱えたくなるもんね」
「今ザラキっつった!?暗に俺を指して言ってるよね!何、坂田的って!!」
「その吸いこまれそうな死んだ目を見てると胸が苦しくなる。虚無感があたしを襲うんです
「ネガティブな方にかよ!?ちゃん俺と顔合わせるたびにそんな事考えてたの!え、何これ、地味にヘコむんですけど」

脱力感に苛まれたらしい銀時の手があたしの頭から落ちて自分の顔を覆う。
なんか捨て犬みたいになっちゃったんだけど。
や、なんか・・・ごめん?

ちょっと居た堪れなくなって沈んだ頭に手を当ててみる。
天然パーマの髪に指を差し込めば、思った通りにふわふわの感触。
相変わらず天日干ししたくなる頭だなあ。

「ほれ、元気出せよ」
「・・あのさあ、ちゃんさあ・・・それ素なの?」
「うん?」
「あーうん・・そーだよね。うん・・・ぐすっこの、ドS娘っ・・」


「・・・・なんつー複雑な関係劇繰り広げてんだ、あんたら」

第三者の辟易した声。溌剌な女の子の声が真横から発された。
肩むき出しのタンクトップとねじり鉢巻きが彼女を男勝りな印象に見せている。
えーっと、つまり、この子って火消し屋ってことでいいのかな。

「・・・誰?」
「や、そっちこそ。コレの保護者、でいいのか?」
「だれがコレだ」

あたしと女の子が向かい合うのをジト目で睨む銀時は、疲れ切った目でガシガシと頭を掻く。
死んだ目がさらに鬱っぽいな。この短時間でMPも底辺みたいです。

「神楽ちゃん・・万事屋に連絡入れたのって君?」
「え、ああ、そうだ!でも、電話に出た子と違うな。語尾に「アル」とか付ける子だったろ?」
「そーそー、その子が動転した挙句にあたしの携帯にSOS送って来たんだ」

事のあらましをなんとなく筋立て話せば、銀時は「え、そうなの?」と言ってきた。
そうですとも!そして伝言レースは出だしから破綻するわ、そのせいで内容を捉え間違えるわ・・・。

「火消し屋から「お宅の御遺体お引き取り下さい(脚色)」って連絡があったらしくて・・・」
「いってねえよ!?俺は「あんたんとこの恥部露出男を引き取りに来い」っつっただけだ!!」
「オイー!!?なんつー碌でもない勘違いしてんだてめーらはっ!!」
「や、恥部露出は事実だろ」

ああ、だから銀時の片目に青あざがあるのか。
鼻にティッシュまで詰めて、

「猥褻物陳列して鼻血出すなんて・・・あんたも変態から犯罪者の仲間入りだねっ(死ね!)」
ちゃーん!!なにそのゴキブリ見るような目っ!カッコに収まりきれない心情がむき出しなんですけど!!」
「死ね(この飛翔猥褻物G)」
「逆にしても言ってる事も考えてる事も最悪だろ!?Gってなに?ゴキか?銀時じゃねーよな?!」


それからしばらくこの攻防は続いた。
神楽ちゃんが目を吊り上げて銀時に殴りかかるまで・・あと三分・・。



(なに、俺のことそんなに心配だった?うん?)
(・・・・・・)
(ほーら恥ずかしがんなって!銀さんが広ーい心で受け止めてあげるからさあ)
(おお、大好きだとも!)
(・・・え)
(だから死んで!!)
(なにその複雑な愛憎模様!!?)

なんか、ようやく主題に沿ったかもしれない。
しかしサブタイトルには全く掠らないというこの無念さ!
銀時とのフラグが立ちそうでへし折るというこのSッぷり!ちなみに続かない。
そのうち土方さんでも似たような事があるかもしれない・・・(笑)