愛してるぜぇ!!

「おい」
「ん?」

ジャーンケーンポン。

屯所の廊下を歩いてたら、唐突に呼び止められた。
振り返ると同時に突き出された拳と掛け声に、反射的に反応してしまったのは日本人の性だろうか。
前準備も何もなく、中途半端に掛け声に応えようとした結果とっさにこちらも拳を出した。

相手の出した手の平を見て、「あ、負けた」とか思いながらそいつの顔を見上げたら無表情の中に心なしか愉悦の雰囲気。
え、なにその「ざまあ」とか言いたげな目は。
冗談はそのフルタイム開いたままの瞳孔とマヨ位にしてくれや副長さん。

「じゃあ、そういう事だから」
「・・・・どういう事だ。というかナニコレ」

片手をあげてそのまま擦れ違って行った真撰組の鬼の副長は相変わらずの咥え煙草を吹かし、すたすた足早に去って行った。
あたしに一通の封筒を押し付けて。
そして訳も分からず折りたたまれたソレを広げた。

「・・・・・・・・・・何、これ」

これをパワハラと言わず何と言おうか。
今日の仕事の予定が180度くらいガラッと変わってるんですけど!
というよりも、通常業務に更に食事当番や洗濯、掃除当番といった仕事が追加されてるんですけど!?

反射的に煙草臭い後ろ姿を追いかけた。
足に力を込めて駆けだし、近づいた隊服の肩をがっしりと鷲掴み。

「ふくちょ・・つか、テメ、ごらああぁぁ!!何してくれちゃってんのアンタああぁぁーー!!
「花見ん時のこと忘れたかテメー!上司に一服盛っておいて、それで済んでありがたいと思いやがれ!!」

振り向き様叫んだら、向こうも言いたい事は予想していたようで頬に怒りマーク付けて喰ってかかってきよった。

「あたしは酔っ払いの魔の手から世界平和に貢献しただけだ!見てぇ、何この分刻みスケジュール!なんで隊士の当番があたしの予定にスライドされちゃってんの!?」
英雄気取んなコノヤロー!!テメーのせいでなぁ、俺ァ折角の花見を寝て過ごしたんだぞ!?折角の休暇だったてのに、俺の仕事減らしても罰は当たんねーよなァ?!」
当たるよ!?当たれよ!勝手に銀時と飲み比べてさあ、お互いに酔いつぶれるの目に見えてたよ!?八つ当たり(つまりあたしの事だ)出来たからってコレは無いでしょ!隊士が分担してやってんのをあたし一人に押し付けるって!?過労死させる気かっ!!」
「はん!テメーがんなことで死ぬタマかよ。大体なぁコレは隊士全員の賛同のもと出来た予定表だ。総悟なんか「コレで楽できまさぁ」とか言って珍しく俺の提案に諸手をあげやがったぜ」

真撰組総出であたしをいびりにかからせやがった!!!
なにこの嫁に対する小姑の様な陰湿な嫌がらせはっ!!

「近藤さんはどうしたんですか!?あの人そんな理不尽絶対に・・・」
「ああ、近藤さんは褌の洗濯物は恥ずかしいからやめてくれだとよ」
「なんで自分の下着の心配しかしねーンだよゴリラああぁ!!」

――――と言う事がお昼ごろ起きた。


「あ゛あ゛・・・死゛ぬ。つかもう泥の様に眠りたい。冬眠したい

最低限のノルマを達成し、ふらふらの体でなんとか無事帰宅。
眠りたい欲求はあれど、腹も空くわ風呂にも入りたいわ・・やる事を脳内で羅列して更に憂鬱になった。
今日はなんか悪意に満ちた一日だった。そういうしかない。
というより、それ以上考えたくない。詮索はしてくれるなだってイライラする前に胃がムカムカするもの

「・・・ただいまぁ・・」
「ああ、おかえりなさい。なんか満身創痍ですけど大丈夫ですか?」
「新八君・・あたしゃ人間不信になりそうだよ。野郎を上司と分かっててもジャイアントスイングをかましたくなるんだ」
「いや・・、玄関でいきなり憎しみの丈を暴露されても困るんですけど・・・」

たびたび家に不法侵入する銀時の連れだから、今更彼がなんでいるのかとか、奥の方からテレビの音がしてるとか、ソレに合わせて「ピン子ー!春恵ー!」なんてテンションあげる神楽ちゃんの声とか―――。
突っ込まないぞ!
突っ込めば心労が溜まるだけだもの!

「ぱっちー・・ご飯食べに来たの?冷蔵庫にあるモンなら食っていいから。つーかあたしにもなんか食わせろや」
「や、なんですかぱっちーって。かなりやさぐれてますよね。なんか負のオーラまで立ち込めてますけど・・」
「おーなんだ帰ってたの。ずいぶん疲れた顔してんなー。プリン食うか、お前好きだろ。遠慮すんな、冷蔵庫にまだたくさんあっから
「遠慮以前にそれこの家の冷蔵庫にあったプリンですよね。元々さんのですよね」

新八君のツッコミに反応する気力は無い。
いつもの死んだ目の銀時が現れても、不法侵入を呆れる気力もない。
だって一日で三日分働いた気分なんだもの。心身ともに。

「あーもー、いーよ。神楽ちゃんにご飯食べさせてあげたらさっさと帰れよ野郎ども」

「俺たちの事は無視かい・・つーか顔色ワリ―なオイ」
「なんでも職場で相当嫌な事があったみたいですよ」
「あん?あーんな男所帯で気疲れするだけだろーが。辞めちまえ辞めちまえあんなとこ」
「・・・いーよいーよ。どうせあたしが悪いんだ。前話で粋がって暴言吐きまくってすいませんでしたー!
いきなり前話の話題持ち出して来たよこの人!脈絡なくて何処から突っ込んでいいか分からないから!!って言うか誰に謝ってんの?!

一応言っとくがあたしは酔っているわけじゃない。
単純に疲れ過ぎて思考回路が錯綜しているだけだ・・・・普通の人の半分くらいしか頭が働いてないだけ。うん。

「放っておけや新八。人間メリハリが大事なんだよ。自分の口の悪さに自己嫌悪なんていい兆候じゃねーか」
「常日頃メリもハリもないあんたに言われちゃあお終いですよ」
「なあに言ってんの口開きゃ男前なんてキャラ設定、今更流行んねーよ。反省するくれーなら、オメーの姉上の口調半分位はこいつに分けてやらねーと」
「銀さん何さり気なくこの小説にイチャモンつけてんですか!?」

青筋立てる新八君と、気だるげに討論する銀時に背を向けて風呂場に向かった。
こいつらの会話に加わっては駄目だ。どんどん泥にはまってくのが目に見えているもの。

片手にプリンを一つ。今日はお風呂入りながらコレ食べてさっさと寝よう。

ガラ・・・・


そして何も考えず、明りがついてる風呂場を不審に思うことなく戸を開けた、ら、なんと半裸の指名手配犯が・・・・。
鍛え上げられた腹筋がまぶしいとか思う暇もない。

「おおぅっ!?なんだ勝手に開けるでない!」
「・・・」
「まさか俺が風呂場でバッタリを実体験するとはっ・・もしかしてこの流れでいけば男女の仲を深めるイベントというやつかっ!?」

カパンッ!!!

「おぶっ」
「うらああああ!!殺せェっ殺せよ!あたしに恨みがあるんだろ神様ァアアア!!」

持っていたプリンを半裸の桂の顔面に叩きつける。容器が割れてプリンがブシャってなった。
なんか、言いようもない光景を作り出してしまったけど構うもんかっ!
というか、なんで前話に無関係な奴が登場してんだよ!

「神様このヤロー!!前話で調子こいてすみませんでした―ッ!!!」

――――という事が夜に起きた。
・・・・・・・・・・・・ええ、ええ反省してますともッ。

ペット飼うのと同じように自分の行動には責任取れ!

―――そんな地獄から早数日が経過しました。
若干人間不信気味であることを除けば、日常生活は普通に過ごしている。

銀時がたびたびご飯をせびる上に菓子袋をちょろまかし、
神楽ちゃんが遊びに来ては歓談に興じ、
新八君と町で遭遇してはどこそこの野菜が安かっただの主婦の様な会話をし、
土方副長と顔を合わせては仕事の話か喧嘩腰に威嚇し、
総悟に職務中と知ってワザと連れ出されては昼ご飯どっちが奢るか言い合い、
交友を深めつつあるお妙ちゃんにはお勤めのスナックに顔を出して酔いに聞く薬湯を差し入れたり。

あの日の悪夢は遠い記憶の彼方へやろうと自己暗示して日々を過ごしている。

ちなみに今日は仕事は休みだ。
新聞を広げながらなんか面白い事無いかなあと、珍しく居間で怠惰にごろごろ。
ああ、やっぱりこういう平和的な事が週に一回はあっていいよね。
間違っても今日はヅラとか余計なもんは来るな!頼むから!

「ふむ、【反侍リーダーGOEMON×アイドル寺門通破局!?スキャンダル直後のスピード破局にファン騒然!!】・・・早いなあ短期間で新聞の一面を二度も飾るなんて。お天気お姉さんの結野アナも結婚したし、・・おっと、あったあったクロスワード」

お目当て発見!
別に誰がくっ付いたり離れたってあたしにゃあどうでもいいもんね。
国の人口がどんだけだと思ってんの。
何億人分の一人のアイドルや女子アナが、結婚しました離婚しましたなんて報道したってどっちでもいいし。
むしろ大々的に取り上げられて大変だなあとか思うくらいだ。
あたしは身近な人の近況が分かれば十分、っていうか一杯一杯だっつの。

「生存本能に置いて人類に必要不可欠な欲求とは何か。カタカナ四文字・・・これ言っていいのかな。アリなのかな?第二問、少年ジャンプ作品で一番不評を買っている作品名を答えよ。・・・コレはコレで別の意味で駄目だろ。アウトだよ。こっちが危ねーっつの

不穏な問題に背筋が凍るので、とりあえず視線を横にスライドさせる。
【第一回 宇宙で一匹変てこペットグランプリ!!】
テレビ欄に乗ってるタイトルに目を滑らせて、とっさに浮かんだのは神楽ちゃんが跨り走り回る白い巨大犬。
ああ、定春元気かなあ。
デカイ図体の癖に甘え上手なあいつは、最近銀時がリードを持って散歩している所をたびたび見かける。
まあ、散歩(に見える)時もあれば銀が市中引きずり回されてたりしてる時もあるんだけど。

「あ、もうすぐ始まる」

ちらと時計を見てみれば後数分で始まる。
ちょうどいいや。コレ見てから買い物行こう!
・・・思考がすでに主婦だとか言わない!気にしてんだからっ!

急須にお茶を入れ、平皿に甘納豆を広げて準備万端。
プチっとリモコンを押すと同時に番組は始まった。


「変である事を恐れるな!変とはつまりオリジナリティーだ!第一回っ宇宙で変てこペットグランプリィィィ!!

昼番組の看板タモさんの声に合わせて湧きおこる拍手。
第一回って事もあるから結構張り切ってるよ。
珍しい宇宙生物が登場するんだろうから、これはこれで期待できると踏んでるんだろうけど。
変な動物と言ってもグロ系ではないと信じよう。プロデューサーの審美眼に掛けよう。
・・・・なんか番組の腹の内まで詮索しているあたしって、やっぱり人間不信抜け切れてないみたいだ・・・。
苦笑を零しつつお茶をすする。ああ、お登勢姐さんの差し入れ美味いなぁ。

「では登場していただきましょう!新宿かぶき町から来ていただきました。宇宙生物・定春君と飼い主の坂田さんファミリーです!!
「ブフーーー!!」

さ、坂田さんファミリーーー!!!
なに?なんなの!?なんでテレビ出てんのっ!?
盛大に吹いたお茶で口の周りはベッチャリ。でもそんな事は些末な事だ。
反射的にさっきまで見ていた新聞を引き寄せた。
【第一回 宇宙で一匹変てこペットグランプリ!!】
【変である事を恐れるな!それ即ちオリジナリティーだ!】
【日本一のペットグランプリの豪華賞品をゲットするのはどんな変てこペットか!?


・・・・・・ああ・・。
納得してしまったよ。
合点が言ったよ。
あんたら分かりやすいよ本当に・・・。
画面に映る見た事のありすぎる顔ぶれになんだか脱力する。
というか、最早ペット自慢なんてそっちのけで豪華商品への下心しか見えないんですが・・・。

タモさんが紹介する定春は銀時の頭を(いつもの様に)齧る。
ガシガシ齧る。流血してても齧る。
・・・・あのね銀、あんたが一生懸命平静を取り繕ってもタモさん引いてるから。
審査員まで引かせちゃあグランプリ狙う以前の問題だから。
緊張が肩に出ているけど比較的まともな新八君が銀に耳打ちしている。
神楽ちゃんは始まってからずっと動かない。・・・・銀もそうだけど神楽ちゃん大丈夫か?

『・・大丈夫ですか?』
『大丈夫っスよ定春は賢い子だから、ちゃんと手加減してますからね〜』
『や、血ィ出てるんですけど・・・』
『定春メ!晩御飯抜きにするアルヨ!』
『・・えーペット以上に個性的な飼い主さんですね。ではここでいったんCMでーす!』

・・・・・なんかテレビ画面の外で神楽ちゃんの声が。
あ、違うわ。画面上から神楽ちゃんが消えて、明後日の方向に叱り飛ばしてる。
・・・・見てて涙が出てくるのは何故だろう。

流血が日常茶飯事だからって、全国放送でソレは駄目だよね。
チャンネル回そうかな。
普通知人がテレビに出てれば気になって目が離せないだろうに、なんでか胸が痛くて目を反らしたくなるよ。
・・・・チャンネル回そうかな。

『はい!では次の方をご紹介しましょう!どうぞ!』

そうこう考えているうちに番組が再開しちゃったよ。
CMの間に銀時は血を拭き取ったようだ。
・・・・・・・・今更だけど、コレ、生放送だよ。マジで大丈夫かコレ?
番組のプロデューサーはとんでもない人たちをチョイスした事を知っているのは、今のところこの場にいるあたしくらいだ。
自分を落ち着かせる意味も込めて、再びお茶に口を付ける。

『続いての変てこペットは宇宙生物エリザベスちゃん!そして飼い主の宇宙キャプテン・カツーラさんです!!』
「ぶはっ!!!・・・ごっげは!ごほっ!?」



こっ、この男は!!何度あたしのメンタルを崩壊したら気が済むんだっ!!!!
どっかの映画で見た様な海賊っぽい洋装に左目の眼帯。そしてマジックで書いたような右頬のあざとい傷跡。
装飾付けてたって一目で分かるわ!!なんで指名手配犯がコスプレして全国ネットに登場してんだよ!?

そして見た事も会った事もない番組プロデューサーに、あたしは申し訳なさと同情を覚える。南無。



『えー、カツーラさん宇宙キャプテンって要するに何なんですかね?』
『要するに宇宙のキャプテンです』

「(・・答えになっちゃいねえ)」


・・・・・・・・・・・・・なんか、どうでもよくなってきた。
ヅラがなんでテレビ出場とか、エリザベスとか言うオシャレな命名された宇宙生物が定春と張れるほどのデカイペンギンお化けみたいだとか・・・・。

『自信の程は?』
『あんなのただのデカイ犬じゃないですか!うちの実家の太郎もアレぐらいありますよ
『んだとコラヅラァ!テメーのそのペンギンお化けみたいな奴もな、うちの実家じゃ蛇口ひねったら普通に出て―――』

――――プツン。

・・・・・うん、何も見なかった事にしよう。
当分はタモさんの番組は見ないようにしよう。
番組潰されてやさぐれたタモさん見るの辛いもん!

「さーて、買い物だ。買い物行こう!」

―――ええ、主婦みたいですよ?
もう、主婦でいいからぁ!!

前のお話では暴言浴びせまくってごめんなさい(土下座)
ヒロインっぽくないヒロインは今回も健在です。すいません。
今回は現実逃避。あの面子見て平和的解決が出来る筈がないものね!