愛してるぜぇ!!

電波に乗せて外部と通信できる、万事屋唯一の通信手段。電話。
受話機を取り、記憶にある番号を並べていく。
あーっとなんだっけか・・0・2・・と、下三桁が「607(毒女)」だっけか。
あ、違った「607(無礼な)」だっけ・・結局同じじゃねーか、意味まであいつにぴったりって・・。

プルルルル プルルルル プルル・・
『はーいはいはい。もしもーしどちら様ー?』

受話器越しから聞き慣れた声。
・・・・・・と何故かその後ろから喧騒と誰かの歌声・・なぜ、歌声?

軽い調子で「はい」連発、明らかに誰からかかって来ているか知ってるだろお前。
お前の携帯、俺の本名じゃなく『たかり屋銀パ』って登録してあるの知ってんだかんな。
なんだ、たかり屋って。人を蠅みたいに・・俺はテメーんちの飯食いに行ってるだけだってんだろうが。

だがしかし、ここで文句を言ってはいけない。
何故なら俺の後ろに控えているガキが期待の視線で俺とあいつの通話を待っているからだ。

「あー?なんか後ろ煩くね?」
―――・・あーりゃー く〜もあるさぁ〜♪
『ぎん?ごめーん!・・今ちょっと後ろでカラオケ中なんだ!』
―――ちゃーん!ちょっと手伝って―!あの人一升瓶から手ぇ離さないんだけどー!

何故か後ろからご隠居の主題歌が聞こえるんですけど。
しかも酒盛りしてますよね・・・?

「あー・・なんかお前、」
『はーいちょっと待っててねー今電話中なんでー!で?何か用事?』
「あーいや、・・・」

取りこんでるがこっちに耳を傾けてくれたことは有りがたい。
が、何しろこっちは明日行く花見を誘いに電話したわけで・・・なんか、明らかに花見中だよね。現在進行形で。
後ろで誰か熱唱してるし、酔っぱらってるし、介抱してるし、されてるし?

ふと後ろを振り向いてみる。
神楽がものすごく不満げにこっちを睨んでやがる。
おい、俺の所為じゃねーぞ。あいつの都合の問題だろーが。

「あ、あのさぁ、明日俺ら万事屋で花見・・」
―――あ〜るいて ゆーくぅんだ しぃっかりとぉ〜!
『きゃー!父さんナイス低音!ハスキー最高っっ!!』
「・・・・・・・・・・・・」

いい加減聞けや!!受話器の向こうでファザコンがフィーバーしてんですけど!?

『あ、ごめん、熱唱してんのうちの父さん!黄門主題歌チョイスって渋いよね。さすが父さん!』
「あ?!肛門が渋い?オメーファザコンも大概にしとけよ」
『・・・・なんでかな。会話だけなのに漢字変換に悪意が見えた』

あのな、こっちだって的確なコミュニケーションとりてーんだよ。
見せられるもんなら、俺の後ろで目に見えて殺気立つ神楽見せてやりてーよ。
お前神楽大好きだろ。絶対そんな適当な態度とらねーだろ。

『まあ、いいや。花見でしょ?どうせあたしはお弁当係としてなんだろうけど、悪いね!実は明日先約あるんだ!
「はあ?」
『といっても、仕事みたいなもんだから断れないんだけど。神楽ちゃんには悪いって言っといて!』
「おい!ちょっと!?」
―――おい!次はデュエットだ!ウルトラ魂!!
『うっしゃ!待ってろ父さん!すぐ行く!・・・あ、じゃあ、新八君に作ってもらったら?お弁当。明日は晴れるらしいから、お花見楽しんで来てねー!』
「お、おい待て、ちゃん!?」

ブツッ・・・・ツー ツー ツー

あ、あのアマっ。
途中から一切人の話無視しやがった!あのファザコン!!

手の中の受話機がみしりと悲鳴を上げた。
だが、俺の後ろに控えるデモンズチャイナを何とか落ち着かせるのが先決。
・・・・・・つか、なんで俺がこんな気を使ってんの?おかしいだろ、おかしいよね?

「えー酔ってないよー」とか全否定する奴に限って酔ってんだよ

さーん!今日のお弁当はなんすかー!」
「唐揚げ入ってますか!?卵は砂糖派ですか?ダシ巻き派ですか?」
「誰だよお見合いみたいな事言う奴はっ。ちなみに俺は醤油派です」
、ちゃんとマヨネーズも入ってんだろうなぁ?」
、俺が昨夜仕込むように言った火薬入りマヨは?」
「ああ?!誰だマヨネーズに火薬仕込んだって!出てこいや!」
「・・・聞かなくても誰だか見当つくでしょうに」

こんちわ、会話から真撰組内部の悪意が察せますね。です。お花見にまさかの連日参加です。
昨日は家族とそのお友達でドンチャン騒ぎました。
今日は真撰組の皆と毎年恒例のお花見・・という名目の桜吹雪の下のチャンバラ騒ぎを実施することと相成りました。
え、チャンバラなんて言ってませんよ、ドンチャンです偶に刀やバズーカが出てくるやつ

ちなみに参加メンバーは(不)平等にくじで決めたそうです。
屯所に取り残された人たちが苦渋の涙を流してたのは昨日の夜の事。
お弁当作りに勤しんでた厨の方まで男共の歓声と爆音が聞こえて来たことから、約数名は強硬手段に出た模様です。
容疑者の名前はあえて出しません。怖いから。
ちなみにお弁当参謀(兼酔っ払いのお世話係)のあたしと、場所取り実動部隊(別名パシリ)の山崎くんは強制参加です。ついでにあたしも別名パシリ、過剰労働じゃね?
ちゃっかりお弁当に入るはずだったプリンを平らげたのは内緒だ。だって正当報酬だもん。

「それにしても今年も満開だー。お花見を毎年企画立案するの副長さんだし、桜好きなんですか?」
「まあ、嫌いじゃねーが。毎年こいつには参加しとかねーと心休まる気がしねーしよ」
「ああ、だから毎年お花見前夜はいつにも増して瞳孔がギラギラしてんですね」
「アン?何が言いてェ」
「ま、今年も参加権・・勝ち取ったからにはガッツリはしゃぎやしょう」
「・・・・・・・(総悟、やっぱお前もかい)」

相も変らぬ涼やかな表情で自白しかけた総悟は、まるで自分は何も悪くないと言った風に言いなおした。
別に隠さなくてもあんたも強硬手段平気で取る奴だって知ってるから安心しろ。あ、いや、やっぱ安心できない。

それにしても、こんな綺麗に散る桜の下で酒盛り。
昨日が満開だったんだな、今日は散り方が綺麗だから結構楽しめるかも。
一足先に場所取りしてくれる山崎くんに期待しようじゃないか。

「・・・・・・ところで、近藤さんは?」
「あん?近藤さんは毎年参加だ。来てるはずだぜ?」
「や、それは知ってるけど・・・いない」
「行く時には一緒だったはず・・いつの間にかいなくなってまさァ・・」


ガハハハ!全くしょうがない奴らだな!どれ、俺が食べてやるからこのタッパーに入れておきなさい!」
「・・・・・・・・・・・なにレギュラーみたいな顔して座ってんだゴリラァァ!!
ドパン!!「たぱァ!!?」

「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」

いた。あのゴリ・・男らしい豪快な笑い声は聞き覚えがある。
つか、あの人なんで人さまの座敷にフツーに居座ってんの?
女の人から鮮やかに、アッパー(しかもグーでなくパーという新進気鋭の手法だ。すげーや!)を喰らう近藤さんを遠くから見ていたあたし達はもう、呆然とするしかない。

「オイオイまだストーカー被害に遭ってたのか。町奉行に相談した方がいいって」
「いや、あの人が警察らしーんスよ」

彼女の迷いの無さと、手加減の無さに女の直感が発動。
「もしかしてこの人が、近藤さんにストーカーされてる不運の被害者っつー噂のお妙さん?」という仮説が立ちました。
そんでもって、彼女のほかにいるメンバーが昨日花見を誘ってきた彼らだってことも今更気がついた。
お妙さんキャラめっちゃ濃いなっ!

「世も末だな」
「悪かったな」

しみじみと悲しい現実を呟く銀時の後ろから、我ら鬼の副長さんが一歩出る。
視界にボコボコにされている近藤さんを入れない様にしているところが、なんだか・・ねえ。
副長さんの後ろからぞろぞろと強面の隊士たちが群がり、振り返った銀時の目に剣呑な物が宿る。

「オウオウ、ムサイ連中がぞろぞろと。何の用ですか。キノコ狩りですか」
「季節的に合わない!ちなみにあたしはキノコよりも山菜狩り派・・いだっ」
「聞いてねーつか、黙ってろや。ここは毎年真撰組が花見に使ってる特別席だ。どいてもらおーか」
「どーゆー言いがかりだ。こんなもんどこでも同じだろーが。チンピラ警察24時かテメーら」

話に割り込んできたあたしの頭を押しのけ、土方副長さんの眼光がぎらぎら。
つか、おまいらなんで数秒もしないで殺気立ってんの?
なに?この前の決闘根に持ってんの?

「そこから見える桜は別格なんだよ。なァ皆?」
「別に酒飲めりゃどこでもいいっスわ〜」
「アスファルトの上だろーとどこだろーとかまいませんぜ」
「酒の為ならアスファルトの上に咲く花の様になれますぜ」

「(総悟・・・未成年が飲酒公開しちゃったよ。どうしよう)」
「(うるせー刺すぞ)」

こっそり横槍入れるあたしの傍で、総悟が本当にこっそり刺してきそうだったので口を閉ざす。
なんでこの野蛮な男共は仮にも女のあたしに対して手加減ないんだ。
皆の賛同を得られなかった淋しい副長さんは青筋立ててごね出したし。

「大体、山崎を場所取りに行かせたはずだろ。どこ行ったあいつ・・・」
「あっちでミントンやってますぜ。ミントン」
「・・・・・・・・・」

総悟の指差す方向に目をやった瞬間、副長さんの殺意は180度山崎くんの方へとシフトチェンジ。
異名通り鬼のごとき形相で山崎くんをメッタメタに殴り倒した。
―――山崎イィィ!!!
―――ギャアアァァーー!!


・・・・どうして山崎くん不出来を叱られても、一人ミントンを誰からも突っ込んでもらえないんだろう。
あれ、可笑しいな悲しくないのに涙が・・。

周囲が阿鼻叫喚で満たされそうになった頃、ようやく近藤さんがお妙さんの暴行から脱出してきました。
持ち直した近藤さんについで、副長さんも山崎くん暴行から戻ってきた。
山崎くん、君の死は無駄にしないよ。意味分からんけど。

「―――つまり、真撰組の恒例行事ゆえ、早々変更することも出来ん」

鼻血だらだらの近藤さんに御手拭き変わりのティッシュを手渡しながら、「そりゃ犠牲者あっての花見だもんな」とか言いたいのを抑えた。
昨晩の惨劇?はて何のことやら。

「お妙さんだけ置いて去ってもらおーか!」
「いやお妙さんごと去ってもらおーか」
「いや、お妙さんは駄目だってば」

近藤さんの変な要求を真顔で訂正する副長さん。
何処まで近藤さんはお妙さんを怒らせたら気が済むのかな。
言ってる間もそのお妙さん、どんどん背景に暗雲立ち込めさせてるんだけど・・・。

「なに勝手抜かしてんだ。幕臣だがなんだかしらねェがな」

いつもは死んだ目をこの時は刺すように睨みつけ、銀時はゆらりと立ちあがった。
何故かそれに次いでお妙さんや神楽ちゃんまで立ち上がる。
ざああ・・・桜吹雪の下、剣呑な雰囲気。

「俺達を退かしてーならブルドーザーでも持ってこいよ」
「ハーゲン●ッツ1ダース持ってこいよ」
「フライドチキンの皮持ってこいよ」
「フシュー」
「・・案外お前ら簡単に動くな」

銀時のそれらしい主張だが、後から要求してきたお妙さんとか神楽ちゃんとかがっつり自分の欲に忠実です。
最後の定春は・・・よく分からん。
一番冷静な新八君はもう、突っ込む力も弱々しいよ。

そもそも客観的に見てこれかなり馬鹿馬鹿しいよね。
ただの意地の張り合いじゃん。
こんなバカげたことに一々突っかかってたら真撰組どんだけ幼稚・・・・

「おもしれェ幕府に逆らうか」
「今年は桜じゃなく血の舞う花見になりそーだな」

幼稚だったーー!!?ちょ、こいつらホント・・・マジでー!??


ああ、なんだかもう。
昨日ちゃんと花見しといて良かった・・・とか、そういうしか無くね?

山崎くんが可哀想だったというお話でした。・・・え、違う?
そもそもあんな素行の悪い連中が、お花見なんで高級行事を平和的に出来るのかがまず謎です。
もう、最初から和やかさなんて期待しません。
お花見に参加したいがために上司達は根回しに余念がないだろうと勝手に想像です(あはは!)