「けほっ」
狭い部屋に蔓延する煙草の煙に涙が出そうだ。
副長さん、吸ってる本人よりも吸ってる人が吐き出した副流煙の方が健康害しやすいのは常識です。
イラッとするので、目の前にいる人の咥えてる煙草を引っ手繰って灰皿に潰してやった。
まだ吸い始め?知ったこっちゃあない。
半箱分は我慢したんだから、こっちの健康被害を優先したっていいはずだ。
「後で弁償しろよ」
「あたしの侵した肺を弁償してくれるならな」
あたしの言い分に妙に共感したのは、この場に居合わせた隊長の総悟と監察の山崎くん。
なんか大きく頷いてるし・・。
君らどんだけ副長さんの喫煙に迷惑してるんでしょうかね。
桂小太郎とかいう脳内メカニズムのちょっと可哀想な攘夷志士の策略により、テロリストの容疑を掛けられたあたしと万事屋3人は今絶賛取り調べ中だ。
本来桂は銀時を攘夷活動に勧誘するため今回のテロ容疑をしかけたのだが、
どんな超化学変化を起こしたのかあたしを嫁にすると主張しだし、『逃げの小太郎』に次ぐ『頭の可哀想なヅラ』という称号を得た。
や、頭皮の意味でなく。
その後は天人を殲滅せんと主張するヅラに、あたしと銀時が説教かまし、真撰組が乗り込んできたりと忙しく。
真撰組から逃れたと思ったら、ヅラの持参した爆弾を横から神楽ちゃんが誤って起動。
彼女の好奇心が皆のメンタルを殺した。
「あたしや副長さんも危うく死ぬところだったんですよ?あの人たちが処理しなかったら、みんな仲良くあの世でした。そんな無茶したってのに容疑掛けられたまんまじゃやるせない」
「大使館の爆弾運んだ件は聞いた。飛脚に扮した攘夷浪士が事故装ってテメーらに爆弾預けたんだってなあ。目撃者も多数だ。裏は取れてる」
「んなら、根本的な容疑は晴れたわけだ。大使館爆破の件がなければ、池田屋での騒ぎにも関わらなかったし?」
いようし。この調子なら帰れる。
あとは銀たちが不用意なことを喋らなければ、釈放も・・・・。
「で?お前はなんで桂に拉致された?」
「ええ?」
「とぼけんな。こっちは最初からあの大使館見張ってたんだ。騒ぎに乗じてお前が桂に攫われるところはバッチリ見た」
「バッチリっすか?」
「おお」
「写真も見ます?土方さんが反射的に激写した一枚でさァ」
激写!?
総悟がひらりと一枚の写真を晒す。
おおう!こ、これは・・・。
「・・あたし写ってないじゃん」
「その場にいたお前の着物と序でにテレビに映ってたもんも照合すれば、そこに映ってる桂が俵担ぎしてる女がオメーだってすぐ分かるだろうが」
「え、テレビ見たんですか?やだなあ、あれ爆風でヘアーが乱れちゃってたんですけど?恥ずかしー」
渡された写真には先頭切って走る桂や万事屋の真横斜め上辺りからの姿。
桂の肩に引っかかってる着物の女は、いくらか距離があるのと髪の毛が顔を上手い具合に隠している。
まあ、実際これはあたしだろうけど。
「んで?あいつに拉致される理由あるのか?」
「え、テロリストの仲間だって疑わないんですか?」
「なんでェ。疑って欲しいのかィ?がMだったなんて知りやせんでした。今からでも吊るし上げてやりやしょうか?」
「否結構。それとあたしどちらかというとSだから」
「んな情報要らねえよ。お前が奴らの仲間なら何年も前に真撰組は解体してるだろうよ。こんな回りくどく大使館なんて狙わねーで。幕府直轄の俺たちを直接叩きゃあいい話だからな」
「あー、ナルホド!」
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」
・・・今のは、あたしじゃなくそれまで静かに話を聞いていた山崎くんだ。
なんか謎が解けてすっきりって顔してるけど・・。
ああ、駄目だな副長さんのこめかみがひくひくしてる。
山崎くん死んだなこりゃ。
それから30秒ほど狭い取調室で男の悲鳴が上がった。
う、男の悲鳴ほど聞き苦しいものはない(酷)。
「すすすいません副長ー!!」
「うるせえぁ!!監察のテメーがこの状況分かってねーのが大問題だってわかんねーのかァァ!!?」
「ぎゃあァァー!!」
「それで?本当のところはどうなんですかィ?」
「あーうん」
総悟が顔を覗き込んでくるが、本当のことを言っていいのだろうか?
求婚されましたーなんて。
普通信じないぞ!?あたしだって信じないもん!
頭痛い子だって思われるね間違いなくっ。
アーやらウーやら、言い淀むあたしに3人が何を勘違いしたのか、だんだんと表情が険しくなったり青くなったり殺気纏い始めたり・・・。
え、ええー!?
ま、まさか疑われてる?
テロリストの仲間だって疑われ始めてる!?
お三方は顔を見交わし、なんだか視線で会話してる。
意思疎通?考えることは皆同じってか?
これは、死亡フラグ?!
本当に死ぬ前にちゃんと言った方がいい・・よなあ・・・。
「あ、その・・・」
S宣言した端からこのチキンっぷり。
やっぱり死ぬのは嫌です。
頭の可哀想な子とか、ヅラと同じ称号で呼ばれるのは癪だが・・・まあ、独房に入るより大分まし。
「・・・さん、あの、話しづらいなら、婦警呼んで来ましょうか?俺たち一端出てますから・・・」
「医者も呼んだ方がいいか?」
「・・・・・・は?」
なんか・・・もしかしなくても、とんでもない勘違いをしてないかこの人たち。
総悟なんかどこから取り出したのか、包丁研ぎだしたよ!?
なんでやねん!!
いきなり言い方がソフトになった上、妙な優しさが・・・・なんつーか気持ち悪い。
なにせ、総悟は桂の指名手配書に殺気飛ばすし、副長さんは言動は優しげなのに瞳孔が・・瞳孔がっ!!
あ、あたしの口からはこれ以上恐ろしいことは・・・。
「お、おおお落ち着いて!なんでこんなことに!?」
「なんでってそりゃあ・・」
「言わせる気ですかィ?」
「あ、いや、なんか年齢制限的な発言が飛び出しそうだからいいや」
副長さんも総悟も本当は仲良いんじゃないですかね!?
息合ってるし、考えることもきっと寸分違わずだよ!
「土方さんどうでしょう。桂の罪状増やして謝礼金も上げるってのは」
「そうだな。誘拐は確実に入れとくか」
「婦女暴行容疑はの話聞いてからっつうことで」
「こいつも一応女だからな・・言い辛い事くらいあるだろ」
「それを本人の前で言うか?余計言えねえよ言い辛いこと」
まあ、それはあたしが普通の乙女チックな思考回路を持っていたらの話であって、言いづらかったのは単に内容が馬鹿馬鹿し過ぎたからだ。
「分かりましたよ言いますよ」
「いや無理しなくていいぞ。今山崎が婦警呼んでるから」
「そうでさァ。女同士でしか言えないこともあるだろィ?」
「だからなんで、こういうときばっかり優しげなのォ!!?」
こういうのは日常生活でも活用してくれ!お願いだから!
あんたらは空気読んでるつもりかも知れんが、空ぶってるから。
バットフルスイングしてボールにかすりもしてないからっ!
「聞いてお願いだから!求婚されただけなんだって!あたしのこと気になって拉致ったらしくて、そしたら変に気に入られちゃったんだって!!ホントそれだけ!」
一気にまくし立てたら、ふたりが振り返った。
しばらくポカンとしたまま微動だにしない。
ああーだから言いたくなかったんだよ。
呆れちゃってんじゃんこの人たち。
人の噂も75日っていうけど、本人からの話じゃあ当分消えねえなあ。
真撰組の仕事休み取ろう。そうしよう。
「求婚?」
「違いまさァ土方さん。耳がおかしくなったんじゃねえですかィ?『求婚』でなく『入魂』だろィ」
「なに入魂って!?アレかっ、野郎のた」
「女がんな下ネタ暴露すんじゃねえよ。土方さんこいつきっと奴に頭“も”侵されてまさァ。医者が必要だねィ精神科“も”」
「下ネタ暴露してんのお前じゃん!!」
総悟は一体あたしの何を期待してんだ。
つか何を否定したいんだ。
入魂されるくらいなら求婚される方がましだっつの!!
「求婚・・・マジか」
「おい、あたしを可哀想な目で見るな」
なんで急激にテンション下げる?
あたしの専売特許とるな。
―――それから2日後。
「ああ、お帰り。なかなか良い住居に住んでいるではないか」
「・・・(なんでいんの?)」
「日当たりも良好で俺好みだ。ひとり暮らしには広すぎるだろうが」
「・・・(えっと殺虫剤どこにやったかな)」
「まあ、安心するがいい。これからは寂しくないぞ?俺は忙しいが寝るときに添い寝はしてやろう」
「・・・(GOKIジェットGOKIジェット)」
「そうそう。冷蔵庫にあった作り置きの肉じゃが。あれは最高に美味かった。また作ってくれ」
ぴっ ぴっ ぴっ
「あ、もしもし銀?ちょっとこっちに神楽ちゃん寄越してくんない?依頼料にご飯作ってあげるからさあ」
「む、夫婦間に他人を呼ぶとは野暮だぞ」
「あーうん、そうそう奴だよ、奴。なんか不法侵入しててさー。え、銀も来てくれんの?わー心強い」
「なに!?銀時だと?未だにお前に纏わりついているのか!?」
「・・・・・纏わりついてんのテメーだろうが。ヅラがっ!!!」
・・・・・・・・なんで・・指名手配犯が家に我が物顔で食卓広げてんの?
・・真撰組のあの優しさが恋しいなんて・・・とうとうあたしも神経が麻痺してきたなあ・・・ぐすっ。
よくある勘違い。ベタ過ぎてしょうがない。
執筆者のキャパのなさを実感するんですよねえ。
つか、真撰組の皆さんは嬢に対してどんだけ優しくないんですかね。
それとも、単に嬢がどん底に鈍いだけか・・・・。