愛してるぜぇ!!

『―――今回卑劣なテロに巻き込まれた戌威星大使館。幸い死傷者は出ていませんが・・・え・・あ、新しい情報が入りました!監視カメラにテロリストと思われる一味が映っているとの・・あ〜ばっちり映ってますね〜!


・・・ほんとバッチリ映ってるわー。

戌威族から逃げてきた銀時たちと、自称「ヅラじゃない桂」さんに全身でタックルかまされ強制的に拉致られたあたし。
現在「HOTEL IKEDAYA」に身を隠していた。

「バッチリ映っちゃってますよ。どーしよ、姉上に殺される」
「テレビ出演!実家に電話しなきゃ」
「あーあ爆風で髪乱れちゃって。まあ、もともと癖っ毛だけども・・」

大きくもないテレビの前に腰を下ろす。
新八君は家でテレビを見ているかもしれない姉に戦々恐々、
神楽ちゃんはブラウン管の向こうで映ってる自分が珍しいのかやや興奮、
あたしはテレビ映りが気になるお年頃やや不満。


「何かの陰謀ですかねこりゃ。なんで僕らがこんな目に・・・」
「ホント、テロリストの容疑掛けられちゃあ、今日は買い物いけない」
「いや、そういう問題でなくて・・・・」

新八君はそうでもあたしには問題なんだって。
買い物はさて置いても、警察関係者に知り合いいるから、こういうのをテレビで流されると事後処理が面倒なんだよ。

ゴリラな局長に男泣きされたり、
マヨラーな副長にメンチ切った事情聴取受けたり、
サド王子な隊長に無意味な言葉攻めでジワジワ追い込まれたり・・泣きたい・・・。

「こんな状態の僕ら匿ってくれるなんて。桂さんって銀さんの知り合いなんですよね?」


・・・・・あのさあ、新八君は匿われてるって言うけどさあ、あたし拉致られたんだよ?
地味に鳩尾入ったタックルかまされたんだよ。
つか、爆弾の事件現場にたまたま居合わせた上、味方のごとくタイミング良すぎる登場した自称「ヅラじゃない桂」さんはめちゃくちゃ怪しくない?怪しいよね?

そもそもあたし達があそこに居合わせたのだって、飛脚のおっさんがお登勢さんちにバイク突っ込ませなかったらあり得なかった分けだしさあ。
・・・あははははぁ・・はあ・・なんでついて来ちゃったんだろ?

「桂さんって一体どーゆー人なんですか?」

「んー・・テロリスト

「・・・はィ??」
「・・・(帰りたぃー・・)」

テロリストのテはテンション読めないのテ

「この国を汚す害虫“天人”を討ち払い、もう一度侍の国を建て直す――」

それまで和室に取り残されていたあたし達は、襖を開け再び現れた男へと視線を移す。
有髪僧だった袈裟姿はなく、着物に着替えた桂と、その後ろにはわらわらと幾人もの男たちがこちらを見下ろしていた。

「我々が行うは国を護るがための攘夷だ。卑劣なテロなどと一緒にするな!」
「攘夷志士だって!?」

憮然とする桂に、一番に顔色を変えたのは新八君。
どうやら彼らの存在に恐怖を抱くというよりも、その存在が今の時代にまだ残っていたことに驚きを隠せないようだ。



―――約20年前。
天人襲来を期に立ちあがったのは侍だった。
しかし、幕府があっさり天人に下ってしまったため、天人を排そうと戦った侍たちは逆に粛清の憂き目にあった。

当時その侍たちを攘夷志士と呼んだのだ。


まあ、簡単に言うとそんなところだけど、国の為に戦ったはずがその国に裏切られたのでは死んでも死にきれないだろう。
未だに天人を排除せんと活動している一部の者が桂たち。
廃刀令まで出されている現代では、侍の魂ぶら下げて表を歩くことも出来やしない。

表向きは消えたように見えても、裏ではしっかりと攘夷たる意思が残っていたということだ。

「そんな人たちがまだ・・・」
「表向きに大きな戦は終わっても、人の心ってのはそうそう切り替えられるもんじゃないってこと」
さん・・・?」

「・・・どうやら俺達ァ踊らされたらしいな」
「?」

銀時の口調は緩いままだが、細められた視線の先には桂を通り越して、見たことのある男に向けられている。
あたしの視界にもそれはもちろん入っていて、数時間前に見た顔は何故か気まずそうに顔を反らしていた。

「なあオイ、飛脚のあんちゃんよお」
「あっ本当ネ!あのゲジゲジ眉デジャヴ!」
「ちょ、どーゆーことっすかっ、ゲジゲジさん!?」

「・・やっぱりな。気絶するような怪我にしては呂律も回ってたし、変だとは思ったけど」
「ったく、分かってたんなら言えよ〜」
「面倒事は嫌いだけど、あんたたちが変なのに巻き込まれると余計面倒なんでね」

これでも心配してんだよ。
ぼそりと零すと、そこへ何故か機嫌が良くなった銀はあたしの前髪をぐしゃりとかき上げた。

「全部テメーの仕業か桂。最近世を騒がすテロも、今回のことも―――」
「・・たとえ汚い手を使おうとも手に入れたいものがあったのさ」

「(・・・何を犠牲にしても、か)」

手にした刀をぐっと握り締め、桂は澄んだ眼で銀時を見据えた。
夢を、希望を追う者の目だ。
あたしはこの目を知っている。

「・・・・銀時、この腐った世を立て直すため、再び俺と共に剣をとらんか。攘夷戦争の折、白夜叉と恐れられたお前の力、再び貸してくれ!」

凛とした耳に響く声は、当人の銀時だけでなく、その場にいた者たちの口をつぐませた。
皆、攘夷戦争という単語とそれに直接関与していたという男たちへと視線を反らすことができないでいる。

血塗れた戦場で、刀を振るい敵を薙ぎ払い、ただ己の信じるものを胸に抱いて駆け抜ける侍。

日々をぐうたらと過ごしている目の前の男が、そんな殺伐とした場所で刀を振るい戦っていたなど。
最近になって銀時との時間を共有し始めたばかりの新八や神楽には予想外だったはずだ。


―――その男、銀色の髪に血を浴び戦場を掛ける姿は、まさしく夜叉――
―――天人との戦において鬼神のごとき働きをやってのけ、敵はおろか味方からも恐れられた武神・坂田銀時。


「・・・・クスッ」

妙に熱く語る桂と、さっきからずっと仏頂面で話を黙って聞いていた銀時。
あまりのギャップに笑わずにはいられない。
桂は銀時を持ち上げているつもりかもしれないけど、この男には過ぎ去ったことを評価されてもどうでもいいことだろう。
死の上に掲げられた称号ならば猶更。

まあ、なによりこいつはどんなことに対しても褒められるのが苦手だ。

「・・っふふ」
姉?」
さん?」

ただひとりいきなり笑いだしたのだから、不審に思われるのは仕方がないかもしれない。
新八君と神楽ちゃんはやや不安げだし、桂の後ろに控えているこわもての男たちは、この場で笑い出したあたしに敵意むき出しだ。
まあ、これはこれで面白い図だけど。

「銀が白夜叉・・・ねえ。あたしにとっちゃあ『白いやらしい奴』ってところかなあ」
「なっ」

一瞬言葉を詰まらせた桂。
あたしの物言いがあまりにも予想外だったんだろう。
銀は銀で「なんだよそらぁ。ニックネームでさえねえよ」と不満を漏らしてる。
でも口元が緩んでるのはモロばれ。
フォローしてやってるんだから文句言うな。

「あたしにとっちゃあ今が全てだからさ。あんたたちが昔何してたかなんていうのは大した問題じゃあない」
「俺たちのしてきたことは無駄だったとでも言うのかっ!貴様っ!!」

「んなこと言ってない。自分のしてきた功績も罪も、それらは結局過去だが・・・。でも、そういうもんは背負い振り返る為のもんだ。あんたは囚われてるじゃないか」

囚われ、雁字搦めになってちゃあ何も出来やしない。

背負うのと囚われるのは全く別物だ。
後ろばっかり振り返ったって、失ったものは取り返せない。
この時代はあたし達の為に機能していないから。

でも、振り返ることができるなら、それを繰り返すまいと立ち向かえる強さにも変えられる。
なら今できることは手の中にあるものを護り、現実を理解し未来を見据えることだ。


「過去に囚われて今を見ない者に、見据える未来はどこにあるというんだ?」
「・・・・・」

攘夷志士相手に結構厳しくはっきり言ったものだからか、室内は一瞬で静まり返ってしまった。
あれ墓穴?なんかすごく沈黙が痛い。


「(すごいさん、桂さん相手に黙らしちゃったよ)」
「(流石ネ、姉!ますます惚れ直したアルヨ!)」

妙に後ろからきらきらしい視線が突き刺さってくる。
新八君や神楽ちゃんの心境はそれなりに分かるんだけど・・。
なんでかな、桂の目まできらきらしてる?
あれ、錯覚?


「――ふっ、俺相手に物応じしないか。イイ女だな。ますます気に入った」

「気にい・・?幻聴まで・・・?」
「あーそーだな。俺の耳まで悪くなっちまったみてーだ。、後で薬処方してくれ」
「りょ、了解」

銀の言葉に即答してしまう程だからあたしもやっぱり混乱してる。
元が良い顔立ちだからというのもあるけど、なによりも声が良いからなあ。
ときめいたかも、こんな状況で相手がテロリストでなければな。

銀の友達にこんなイタイ人が・・って、なんで人の手を握るんだこいつ。
ちょ、引き寄せないでっ!?


「初めて見たときから気になってしょうがなかった。思わず勢いのまま連れてきてしまったが・・・。しかし俺の目に狂いはなかった!」
いや、狂いまくってる最初から。特に頭が。こんな話をしてた筈じゃなかったろ。もっとシリアスだった。つか、やっぱり拉致じゃねーかよ!テロの次は誘拐かコノヤロー!」

「わが妻にふさわしい。・・口は多少悪いが、まあこれはこれで刺激的・・。時間を掛けて調きょ・・直してゆけばよかろう」
「よかねえよ、ありえねえよ。こんな空気も女心も読めない旦那なんて御免だよ。刺激ってなんだ?調教ってなんだ!?おもっきし変なプレイさせる気だよこのエロリストっ」

「安心しろ。おれの仕様は大抵ノーマルだ
「何を基準に安全保障してんだ。何もかもが危険信号点灯してる、警報鳴ってる、大抵って言ってる時点でレッドゾーンに両足浸かってんの分かんない!?」

もうやだ、何この宇宙人!
人の話なんて勝手にリセットしやがるし、脳内で勝手に予定立てちゃってるんだもん。
後ろの部下見てみろよ、上司の豹変見て固まっちゃってるから!!
なんなの、銀のスカウトじゃなかったの!!?

「あ゛ー・・・もういやっ、この馬鹿潰して帰りたい
「あ、でた。さんスイッチ」
「いや、テンションは下がっても、殺意抱いてる時点でこいつのフラストレーションはまだ上昇中だ」
「女の結婚は第二の人生アル。イライラもしたくなるネ」

「あたしにだって選ぶ権利はあるはずだ。将来の結婚相手はお父さんみたいな人って決めてるもん・・・」
「幼稚園児かお前は」

なんかもう、精神的にやられた。
何もする気が起きない。
だってまともに取り合うと疲れるし・・・・。

そもそもあたしの頭はツッコミ属性じゃないんだ。
ややツッコミややボケ属性なんだ。
皆と調和を図るために出来てんだ。
大ボケかましまくる男相手に全力ツッコミなんてハードルが高すぎる。
出来るのは奴の口に左ストレート突っ込むことぐらい。あ、うまい?


「まあ、彼女との祝言は追々相談するとして、」
「おいおい、ヅラァ。いつの間にかワンランク上がってんぞ。こいつに全力で嫌がられてんのわかんねーの?」
「ヅラじゃない桂だ!」

「・・だめだ銀。ここはひとつ、神楽ちゃんの一発ストレートでこの世から抹殺しないと」
「やめなさいね。神楽にも殴る相手ぐらい選ばせてやれ

「そういう問題ではない銀時!おれの妻と馴れ馴れしく話すな!!」
「「馴れ馴れしいのはテメーだ」」

誰が妻だ。
断られた直後なのに妄想で勝手にカップリング成立させるな。
しかもこの調子でいくと、この話終わるころには老後の生活まで妄想が完結してそうだ。
孫までいそうでリアルにキモイ。
顔も声もいいのに頭が残念だ。
何もかもをぶち壊してる、ある意味珍獣。
関わりたくない。


「俺たちの戦はまだ終わらないぞ銀時!」
「いや終わらせて!神楽っ、やっぱこいつ殴――」
「聞け。そうではない」

桂の声色が急に変化したことで、銀時の目つきは訝しげなものに変わる。
あまりに自分勝手に暴走していた話題だったが、本来はこの話をするはずだったのだ。
あたしはあたしで、阿呆な話題はそのまま綺麗に忘れ去ってくれればなおよしっ。


・・・それにしても、やや強引ではあるがなるほど。
この桂という男は腐っても攘夷志士、可哀想な思考回路をしていても裏で志士たちを率いてきただけあり、その威圧感は見ている者を黙らせる。

「銀時、お前も忘れたわけではあるまい。国を憂い共に戦った同志たちの命を奪っていった、幕府と天人に対する怨嗟の念が――」
「・・・」
「天人を掃討し、この腐った国を立て直す。我ら生き残った者が、死んでいった奴らにしてやられるのはそれぐらいだろう」

朗々と語る桂の目には一体何が映っているのか。
戦の中で失ったものは、おそらく少なくはない。
それは命であり、立場であり、自分の心であり―――。

時代に追い立てられるように彼らの存在は希薄になって、それでも奥底にある彼らを駆り立てる意志とは一体なんだろう。

「我らの次の標的はターミナル。天人を召喚するあの忌まわしき塔を破壊し、奴らをこの江戸から殲滅する」
「・・・・」
「だがあれは世界の要。容易には落ちまい。お前の力がいる銀時」


桂は視線を反らし続ける銀時を真っ直ぐに見据える。
お互いに共通する過去を抱え、お互いがどんな気持ちで刀を振るってきたのか。
坂田銀時と桂小太郎のふたりはそれをこの中の誰よりも近い場所で見て来たのだ。

当時の銀時ならば、もしかしたら再び戦場へ赴いたのかもしれない。
だけど、―――。

「(今のあんたには、そんなこと考えるまでもないだろう?)」

自然と口元に笑みがこぼれる。
だって、きっかけはあたし達の後ろに立ってる。
いつの間にか懐に飛び込んできたふたりは、今やあたしの大切な友人であり、万事屋・坂田銀時の守るべきものだ。

あたしは後ろで不安げな表情で見守る新八と神楽を振り返り、安心させるようにニッと笑いかけてやる。
あんたたちが心配することなんか、なあんにもありはしないんだ。
銀を信じてやんなって。

 バ ン ッ !!!


―――刹那。襖が蹴破られ、そこから黒い洋装の男たちが刀を手に雪崩れ込んできた。

唐突なその音はその場にいた者たちの緊張をより一層強固なものにするには十分。
意外と冷静なあたしは、新八君や桂の部下の何人かがびくりと肩を撥ねさせるのを目撃してちょっとニヤリ。
心境は、エロ本熟読している息子の部屋を襲撃した母親。
まあ、そんなことはどうでもいい。

バタバタぞろぞろと人口密度の増す部屋。
黒い制服に身を包んだ者はほとんど知り合いだ。
・・ああ〜出てきたよ副長さんと総悟。
あたしの姿を見て安心した様に見えるのは、少しは心配してくれたってことかな?


「御用改めである!神妙にしろテロリストどもっ!!」

「しっ・・真撰組だあァァ!!」
「いかん、逃げろォ!!」

物騒な連中の乱入によりに桂の一派は一にもなく逃げ出し、銀時たちも物々しい真撰組の言動に襖を蹴倒し逃亡を開始。
あたしはそのまま居残れば保護される・・・・はずだったんだけど。

なあんでまた?

なんでか、またあたしは桂に俵担ぎされていた。
逆さまの視界に、顔を上げればこちらに全力で斬りかからんとしているチンピラ警察。

「ななななんなんですかあの人ら!?」
「真撰組だよ。対テロの武装警察つっうか幕府が作った特殊組織。おいヅラどさくさに尻を触るな」
「なんつう物騒な!・・ってさんまた拉致られたんすか!?」
「文句ならそのヅラに言え。あたしはそのまま保護してもらおうと思ってたのに・・」
「何を言う!ヅラじゃない小太郎と呼べ!未来の妻を野蛮な連中に引き渡してなるものかっ!!」
「・・・なんなのこのKY?」

「あれ?銀ちゃんいないアル」

「「「え゛」」」

まさかとあたし達が後方を振り返ると、銀はひとりの隊士と一触即発。
あ、瞳孔開いてるありゃあ副長さんだわ。
下手すれば銀でも無傷ですまない。

「ちょ、副長さーん!その人テロリストじゃないよー!?」
「げ、知り合いなの!?」

だって仕事でよく顔合わせるし。
あたしが離れた彼らに叫んだそのあとすぐ、前触れもなくふたりが爆発した
え、爆発?

「あばばばば。爆発した!銀さん爆発したよ!!」
「いやまて、間一髪避けたようだ!」

混乱する新八君。
ヅラが言った通り、爆発に生じた煙から銀時が飛び出してきた。
全力であたし達に追いつき、悪態をつく。

「くっそー!死ぬかと思ったっ!
「銀ちゃん、髪が綿あめみたいになってるヨ」
「マジか!?」

「(あれバズーカだったよ。総悟だろうな。副長さんもろとも狙ってたよ絶対)」
「桂さんこっちです!!!」

「おい出てきやがれ!!」
「ここは15階だ!逃げ場なんてどこにもねえんだよ!!」

バリケードを敷いた一室に立てこもり、しかし外にはテロリストを捕まえようとせんとする真撰組。
袋のねずみ。
考えるまでもなくねずみがあたし達。

皆、入口付近に腰を低くし外の様子を探る。
・・なんかガシャガシャと、重火器を扱うような音が・・・?
マズイまさかあたしもろとも殺られる!?

「ヅラ、何の真似だそりゃあ?」
「・・・ぅん?」
「時限爆弾だ。ターミナル爆破の為に用意していたのだが、仕方あるまい。こいつを奴らにお見舞いする。その隙に皆逃げろ・・・」

銀時の声に顔を傾ければ、桂の手には野球ボールより一回りほどの大きさの爆弾らしきもの。

おいおい・・・。

「・・・桂ァ、もう仕舞にしよーや。てめえがいくら手を汚そうと、死んでった仲間は喜ばねーし時代も変わらねえ。これ以上薄汚れんな」
「薄汚れたのは貴様だ銀時。時代が変わるとともにふわふわと変節しおって。武士たるもの己の信じた一念を貫き通すものだ!」


も言ったろーが。囚われてばっかじゃなんも見えねえ。お膳立てした武士道貫いてまた大事な仲間失ってどうする」


――失うことを知っているからこそ、この男が目の前にいる仲間を決して裏切らない事くらい分かる。

天人殲滅をうたう桂に、同じ天人の神楽を戦の中で敵対したのと同じものだなんて思えるはずがないんだから。
答えなんて考える間もなく出てくる。

「どうせ命張るなら、俺は俺の武士道を貫く。俺の美しいと思った生き方をし、俺の護りてェもんを護る!」
「・・・・・」

銀時の確固たる意志に何を見たのか、桂は目を見張り言葉を詰まらせた。
ある意味単純な武士道を語る銀時に、ストレートな分堅物な桂には思うことがあったのは間違いないだろう。

・・・・・で、こっちはいいとして、あとは真撰組をどうにか・・・
あれ?神楽ちゃんいつの間に爆弾手に入れたんだ?

あれ?なんてカチッ・ピッて爆弾から聞きたくないような電子音が・・・・
あ、あれえェェ!!?


姉・・・」

「か、かか神楽ちゃん?」
「どうした?」
「なんだ?」

「これ、スイッチ入っちゃったヨ」

「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」


もう、やんなっちゃったヨ。

―― ド ガ ァ ン !!

「・・・・おおう、なんつーか・・・」

滅茶苦茶だ。

屋上から見下ろして、ホテルの垂れ幕にかろうじて引っ付いている銀時を見下ろし、賞賛すべきがボロボロの姿を心配すべきが迷う。

神楽ちゃんが誤作動させた爆弾は、カウントダウンを見れば残り10数秒。
誰よりも早かったのは桂で、再びあたしを抱え上げ隠し通路に逃亡。

っておい、爆弾なくても脱走できたんじゃん!

視界の隅で最後に見たのが、銀時が神楽ちゃんから爆弾をひったくり、バリケードをぶち破り駆け去る姿。
本来あたしは銀の後に続けべきなのだろうが、あまりのやるせなさにあたしが桂の鳩尾に膝打ちしたことはまた別だ。
ついでに、またあたしの尻触る男のサラッサラの髪の毛もブチブチ引っ張ってやった。ざまあ。


「フン。美しい生き方だと?あれのどこが美しいんだか」

桂の視線の先はあたしと同じ。

総悟のバズーカで天パは熱でチリチリ。
爆弾抱えて窓から飛び出し、空にぶん投げるという荒技を行ったことで、精神的にボロボロ。
顔色最悪の銀。

「それでも、あんなこと出来るのあいつくらいだよ」
「ふっ、まったくだ」

でも、生きててよかった。
下手すれば自分の仲間が誤作動させた、古い友人が持参した爆弾によって昇天・・・・笑えねえ。
元々の元凶たる桂が妙にすっきりした表情で横に立ってるのは、いいのか悪いのか・・・。


「後でちゃんとあいつに詫びなよ。結果的にあんたの尻拭いしたことになるんだから」
「ああ。武士たる者、借りは必ず返すさ」
「いや、武士以前にあんたの人間性の問題・・・

ああ、もう何を言っても無駄だろうな。
この短時間で悟った。

この男は自分の法則の中でしか行動しなさそうだ。
下手に余計なこと言う必要性をまったく感じない。

「で?あんたの見据える未来ってのはちゃんと見えてる?」
「―――ああ。また、会おう

どこまでも抜け目のない男はあたしに背を向け、すでに待機していたヘリに乗り込み去って行った。

「去り際だけは潔いな」

あれだけ妻だなんだと言っていた割に、桂は満足げな表情であっさりと逃げた。
かっこいいのか悪いのか・・・って、あれ?


「何これ?写真・・・って、はあ!?」

いつの間にかあたしの着物の合わせに挟まれた写真に気づく。
見ると・・桂の真顔のアップがカメラ目線でピースサインかましてた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしろと?

ぶっちゃけると、桂さんのブロマイドを懐に差し込むのは、たまたまです。
本当はほとぼり冷めてから家に不法侵入とかいろいろあったんですが・・・。
あまりに長くなったので、落ちは結構迷った・・・(本音)
ヒロインはきっと自称Sだと思った。
Sに成り切れないのは、周囲が濃すぎて付いていけないせいだあ!!(責任転嫁)